アフターコロナの原油価格に注目!

〜2020年6月4日更新〜

原油市場に何が起こったのか?

現在の日常生活の中で、所有者(売り手)が買い手にお金を支払ってでも引き取って貰いたいものとして何が考えられるでしょうか。
例えば、不要になった大型の家具類や廃車寸前の自動車やバイクなど・・・。
使い道がなく置き場所に困るうえ、一般的に見ても需要がなく換金性に欠けるもの=真っ先に廃品類などが頭に浮かぶのではないでしょうか。

仮に、専門的に見ればある程度の価値を有していたとしても、当事者にとっては全く不要であり、更に保有し続ける事で資金面などのリスクが生じる場合、二束三文でも手放すか、それでも売れないようなら、 業者にお金を支払ってでも処分した方が得な場合があります。
しかし、一般的にも需要がなく、商品価値が低いものであれば理解できますが、それが、現代の経済や生活に必要不可欠な「原油」という貴重な資源であればいかがでしょうか。

原油の所有者(売り手)が、買い手に売り渡すときにお金は貰わずタダで、更にはお金を支払って引き取ってもらう。現在のマーケットでこの様な事が起こり得るのでしょうか?
にわかに信じがたい出来事でありますが、この様な異常事態が実際に今年の4月に米国のニューヨーク商業取引所のNY原油(WTI)市場で起こったのです。

原油価格は過去30年以上、1バレル=10ドルを下回る事がありませんでしたが、2020年4月20日に史上初のマイナス価格が示現しました。

一体原油市場に何が起こったのでしょうか。

本コンテンツでは、原油市場の2018年以降の流れや、史上初のマイナス価格示現の背景、新型コロナウイルス感染拡大の原油市場への影響から、「アフターコロナ」と称される新型コロナ終息後のシナリオなどを解説致します。


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・現在の下落相場は、2018年10月を天井に始まった

WTI原油週足チャート

プラッツドバイ原油週足チャート

世界の指標とされるNY原油が、史上初のマイナス価格と異常事態が発生し世界を震撼させた中、2020年4月22日に東京商品取引所で上場されているプラッツドバイ原油先物価格は、1kl=15,710円の安値を付けました。この価格は、なんと2002年2月以来18年2か月ぶりの安値となります。
原油価格がこうした歴史的な安値へ沈むことになった始まりは、遡ること2018年10月になります。当時、プラッツドバイ原油先物価格は58,300円、NY原油は76.9ドルという高値を付けておりましたが、そこを天井にその後長期下降トレンドを形成してきたのです。

当時の状況を振り返りますと、トランプ米大統領は同年5月8日、中東諸国への攻撃的な介入と過去の核開発に関する虚偽報告を理由に、イランと主要6カ国による核合意からの離脱を決定し、イランに対する経済制裁の再発動を発表。経済制裁の発動により、イラン産原油日量200万バレル程度が市場から消失するとの懸念から、原油価格の上昇を招きました。

更に、経済制裁を科せられたイラン側も核開発再開を警告するなど反発を強めたため、米国や欧州主要国、中東の親米国との地政学的リスクが一段と高まり、原油価格高騰へと繋がりました。

トランプ米大統領は、同年11月の大統領中間選挙を控えて有権者獲得を意識し、OPEC産油国に増産を迫るなど価格高騰抑制に動きましたが、目立った成果は上がらずその後も価格上昇は続いておりました。

しかし、この上昇は米中貿易摩擦激化により終止符を打つこととなります。

世界1位、2位の経済大国の貿易摩擦激化を受けて、世界景気悪化への警戒感が強まり世界的に株価が崩れ、原油価格もエネルギー需要減退観測から2018年10月〜同年年末に掛けて急落しました。
そして、2020年1月に米中が貿易協議「第1段階」の合意文書に署名するまで、貿易協議を巡る両国の動向に振り回される展開が続いたのです。

・米国がファーウェイにも牙をむいた!?

2018年8月、トランプ米大統領が国防権限法にサインし、中国2大通信企業であるファーウェイとZTE(中興通訊・ちゅうこうつうじん)製品の米政府機関での利用を禁止しました。ZTEはイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していたとして、米企業によるZTEへの製品販売を7年間禁止し、米国市場から締め出される“宣告”を受けておりましたが、ファーウェイも標的となったのです。

その背景には、米中経済安全保障調査委員会(USCC)が技術系コンサルに依頼したレポートに、「米国の安全保障を脅かす中国ICT企業」として、ファーウェイの名前があがった事が関係していると言われております。

米中で覇権を争うハイテク分野の中でも、通信はビジネス上のみならず安全保障上の観点からも最重要ファクターであり、何としても次世代通信規格「5G」の主導権を中国に奪われたくない米国にとって、ファーウェイは排他しなければならない存在であったと考えられます。

貿易協議が難航する中、このニュースが一層米中間の緊張を高める要因となり、両国の対立激化が世界的なエネルギー需要減少観測に繋がり、原油の下落に拍車を掛けたと考えられます。

・米国が世界最大の原油生産国に OPECの影響力低下が懸念


参考:BP Statistical Review of World Energy
(天然ガソリン等を含む)

米エネルギー情報局(EIA)の推計によると、2017年世界3位だった米国の原油生産量は、2018年に日量平均1095万バレルと前年比で約2割伸び、同2位のサウジアラビアと首位のロシアを抜き、45年振りに世界最大の生産国に返り咲きました。
また、石油危機の経験から禁止していた原油輸出を、2015年の解禁後急速に伸ばし、2018年11月最終週にはサウジやロシアなどに次ぐ世界4位の輸出国になっております。

現在も米国の生産や輸出は拡大を続けており、その規模は莫大で米国産原油が国際価格に与える影響力は日に日に増しております。
一方、これまで世界的な原油の生産や価格の調整役として主導権を握ってきた石油輸出国機構(OPECの)の原油市場への影響力は、米国が世界最大の供給国となった事で低下傾向にあると言えます。
この為、これまで原油市場の波乱要因となっていた中東の地政学リスクは、以前に比べると原油価格の持続的な押し上げには繋がりにくく、一過性で終わる事も多くなっております。
しかしながら、現在は「OPECプラス」として、ロシアなど非OPECと協調して生産調整などの政策を打ち出す事が多く、影響力が低下傾向にあるとはいえ、今後の価格動向を占ううえでは欠かせない存在であります。

・協調減産体制の崩壊⇒ 原油価格歴史的な大暴落へ

OPEC産油国は2020年3月5日の臨時総会で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界経済への悪影響=「コロナショック」による、同年の世界のエネルギー需要見通しの大幅減退を考慮し、

  • OPECプラスによる協調減産の2020年末まで延長
  • 同年6月末まで減産量を日量150万バレル拡大(総会後の協議で同年末までに変更)

の2点を翌日のOPEC加盟国とロシアなどOPEC非加盟国でOPECプラス会合に提言することで合意しました。

しかし、翌3月6日に開催されたOPECプラス会合では、減産量の増加を求めるOPEC側と、減産期間の延長のみを主張するロシアが対立し協議はまとまらずに決裂。年初から続いた協調減産体制が崩壊することとなりました。

更に、この結果を受け、それまで自主的に減産を行っていたサウジアラビアが方針を転換。4月以降、増産に転換したうえで販売価格も大幅値下げに踏み切るなど、世界シェアの獲得へと動き出し、一方のロシアも石油企業が可能な限りの量を自由に生産できる方針を示したため、価格戦争突入への懸念が高まりました。

「コロナショック」による、エネルギー需要の世界的な減退が警戒される中での価格戦争突入を嫌気して、3月9日に原油価格は大暴落、北海原油代表油種ブレント先物が一時31%急落となり、NY原油も27%下落する中、プラッツドバイ原油も20,940円まで暴落、終値では前週末比11,200円安の21,760円となり、上場来最大の下げ幅を記録しました。

・OPECプラス再び協調減産合意も押し上げ効果なし

価格急落への警戒感から、2020年4月9日並びに12日にOPECプラスの臨時会合が開催され、同年5月から6月にかけて世界の原油供給の約10%に当たる日量970万バレルと、過去最大の減産が合意されました。この歴史的な合意により、3月の会合での交渉決裂によって勃発したサウジアラビアとロシア間の増産競争に一旦終止符が打たれた訳です。
更に米国やカナダなども減産を表明し、合計で日量1500万バレルを超える減産見通しとなった事で、需給バランスは改善に向かうものと思われました。

しかしながら、「コロナショック」による世界の原油需要激減見通しは根強く、今回の協調減産の規模では需給改善には不十分と捉えられ、原油価格は下げ止まりませんでした。

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「コロナショック」が世界の金融市場に暗い影を落とす中、2020年4月20日にはNY原油(WTI)期近5月物が「1バレル=マイナス37ドル」と史上初のマイナス価格を記録しました。


商品先物取引は、将来のある一定時期に受け渡しをする商品の価格を決める取引ですが、取引の期限までに反対売買による差金決済を行わなかった場合には、実際に現物の受け渡しを行わなければなりません。NY原油の5月物は同年4月21日にその期限となる決済日を控えていましたが、先物を買っている人は、同日までに転売による差金決済をしなければ、原油の現物を受け取る必要がありました。

しかし、「コロナショック」によって既に原油の需要は大幅に減退しており、原油の受け渡し場所となる米オクラホマ州のクッシングの貯蔵施設(※)も満杯に近い状態となっていました。そのため、買い手は仮に現物を受け取ったとしても貯蔵する施設を手当てできず、引き渡し義務に応じられないとの懸念が強まった事から、5月物の納会日前日に買い方の投げ売りや手じまい売りが殺到したため、前代未聞の「マイナス価格」が示現したのです。

※NY原油(WTI)、は米オクラホマ州クッシングにある指定された貯蔵庫での受け渡しが決められています。

・マイナス価格示現の再来はあるのか?

NY原油5月物は、2020年4月20日に前代未聞の「マイナス価格」を示現しましたが、同事象は一時的に止まり、翌日以降、限月交代が行われたNY原油は急速に切り返し、同年5月18日には約2か月ぶりとなる30j台を一時回復するなど、現在は落ち着きを取り戻しております。

4月に起きたマイナス価格の示現は、特殊要因が重なっての事であり、実際5月に行われた6月限の限月交代は平穏に収まりました。しかし、未曽有の事態が続く新型コロナウイルスがもたらす経済や日常生活への影響は予測不能で、これまでの常識では図り切れない事が現実に起こる可能性があります。
今後、再び期近の限月交代時に買い手が現れず、マイナス価格が示現する可能性も否定できないため、引き続き警戒が必要と思われます。

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新型コロナウィルスの感染拡大を受けた各国の制限措置が解除され、経済活動の本格的な再開が進んで行けば、原油需要の回復とともに価格回復のシナリオが描けるでしょう。

しかし、パウエルFRB議長は講演で、外出制限の緩和が広がる中で「感染拡大の第2波がなければ、景気は今年後半に着実に回復する」との見通しを示した一方で、第2波の懸念が残る限り「持ち直しには時間を要する」として、完全に元通りになるにはワクチンの実用化が必要と表明しております。
現段階では、景気の本格回復は「来年末までかかる可能性がある」と警告し、失業率は25%まで悪化する恐れや成長率がマイナス30%台に落ち込むリスクを指摘するなど、先行き懸念は根強い状況にあります。

但し、「OPECプラス」の参加国メンバーが、5月前半に原油輸出を急減させたことが調査会社の調べで分かり、過去最大の協調減産が順調に開始されたことが示されました。更に、エネルギーサービス会社ベーカー・ヒューズが発表した2020年5月22日までの週の米国内石油・天然ガス掘削リグ稼働数は、前週比21基減の318基となり、新型コロナウイルス流行による需要急減と価格急落を背景に、1940年の統計開始以来の最低水準を3週連続で更新した事が発表されております。

各国の経済活動再開で需要の底入れ期待が強まってきている中で、OPECプラスや米国の減産効果もあり、需給均等の可能性が徐々に意識されているのではないでしょうか。

前代未聞の「マイナス価格」を示現した原油価格ですが、諺にも「腐っても鯛」との言葉がある様に、現代の経済や生活に必要不可欠な貴重な資源が、いつまでもタダ同然で取引される訳がなく、更には「アフターコロナ」、今後世界経済が復興へと歩を進めた場合、当然、エネルギー需要は大きく回復する可能性があり、あの時タダでお金を貰って引き取っておけば良かったと後悔する時期が来てもおかしくはありません。

この様な事から長期的な視野で考えた場合、原油価格はマイナス価格示現で「底を打った」可能性も高いのではないでしょうか。

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